ジャズの即興演奏で見られる「グルーブ感」・・・社内報で振り返るチームがやる気に満ちてきた発火点

チームが突然、動き始める瞬間がある
仕事をしていると、ときどき不思議なことが起こります。
最初はどこか他人事だったプロジェクトが、あるときを境に、急に動き始める。
会議で誰も発言しなかったチームから、次々とアイデアが出るようになる。
言われたことをやるだけだったメンバーが、自分から「こうしてみませんか」と提案し始める。誰かが困っていると、頼まれてもいないのに別の誰かが手を貸す。気がつけば、チーム全体がやる気に満ちている。そんな瞬間があります。では、いったい何が起きたのでしょうか。
優れたリーダーが指示を出したからでしょうか。
目標が明確になったからでしょうか。
もちろん、それもあるかもしれません。
でも実際のチームを見ていると、それだけでは説明できないことがあります。
誰かの何気ない一言だったかもしれない。
一人が始めた小さな行動だったかもしれない。
誰かの失敗を、別の誰かがフォローしたことだったかもしれない。
お客様から届いた一通のメールだったかもしれない。
一つの出来事をきっかけに誰かが動き、その人の動きを見て別の人が動き始める。そして、いつの間にかチーム全体に熱が生まれている。私は、そんな瞬間をチームの「発火点」と呼んでみたいと思います。
ジャズの即興演奏に生まれる「グルーヴ」
この感覚は、ジャズの即興演奏に少し似ています。
誰かが音を鳴らす。
その音を聴いた別の人が、音を返す。
すると、その音に影響を受けて、最初の人の演奏も変わっていく。
さらに別の人が加わる。
誰かが少しテンポを変える。
誰かがそれに応える。
演奏が進むにつれて、「誰が誰に合わせているのか」という境界がだんだん曖昧になっていく。全員が誰かに影響を与えながら、同時に誰かから影響を受けている。そして、ある瞬間。演奏全体に、何とも言えない一体感が生まれる。いわゆる「グルーヴ」です。誰か一人がグルーヴをつくったわけではありません。一人ひとりの音と、それに対する誰かの応答。その連鎖から、全体として一つの流れが生まれていく。組織の中でチームが動き始める瞬間にも、これとよく似たことが起きているのではないでしょうか。
「誰が動かしたのか?」という問いを変えてみる
プロジェクトが成功すると、私たちはつい、その中心人物を探します。
「あのリーダーが引っ張ったから成功した」
「あの人のアイデアがきっかけだった」
「あの人がみんなを巻き込んだ」
もちろん、そうした人がいることもあります。でも、少し視点を変えてみると、別の景色が見えてきます。
「あの人がみんなを巻き込んだ」と思っていたけれど、実はその人自身も、誰かの言葉に巻き込まれていたのかもしれない。
最初にアイデアを出した人も、現場で誰かが漏らした一言を聞いていたのかもしれない。
リーダーが決断したのも、メンバーの小さな行動に背中を押されたからかもしれない。
つまり、誰かが一方的にチームを動かしたのではなく、巻き込みながら、同時に巻き込まれていた。そう考えると、チームの動きはもっと立体的に見えてきます。「誰が動かしたのか?」ではなく、「私たちは、どこから動き始めたのだろう?」と問いを変えてみる。そこに、チームの本当の姿が見えてくるのかもしれません。
「あなたにとっての発火点は、どこでしたか?」
ここで、社内報にできることがあります。
一つのプロジェクトが終わったとき、成功した結果だけを紹介するのではなく、そのプロセスを振り返ってみる。そして、参加したメンバーに、こんな質問をしてみます。
「あなたにとって、このチームに火がついたと感じた瞬間は、どこでしたか?」
すると、おそらく人によって答えは違うはずです。
ある人は、
「○○さんが会議で、あの一言を言ったとき」
と答えるかもしれない。
別の人は、
「いや、その前に△△さんが試作品を勝手につくってきたときじゃない?」
と言うかもしれない。
また別の人は、
「私は、お客様から最初の反応が返ってきたときだと思う」
と答えるかもしれません。
もしかすると、リーダー自身は、
「あのとき、メンバーが自分から動いているのを見て、これはいけると思った」
と話すかもしれない。
一つのプロジェクトなのに、人によって見えていた「始まり」が違う。
それを社内報の上に並べてみる。
すると、それまで一本の成功物語として語られていたプロジェクトが、まったく違って見えてきます。
発火点は、一つではないのかもしれない
それぞれの話をつないでいくと、こんなことが見えてくるかもしれません。
誰かが言葉を発した。
その言葉を、別の誰かが拾った。
拾った人が、小さく動いてみた。
その行動を見て、別の人が「自分もやってみよう」と思った。
その人の動きに、今度は最初に言葉を発した人が勇気づけられた。
さらに別の人が加わった。
少しずつ、チームの空気が変わっていった。
こうして振り返ってみると、「ここが発火点だった」と一つに決めることが難しくなります。むしろ、小さな発火点がいくつも生まれ、それらが人から人へと連鎖していた。という方が近いのかもしれません。火をつけた人と、火をつけられた人がいるのではない。誰かが誰かに火を渡し、その火を受け取った人の熱に、今度は自分自身が動かされていく。そうやって、チーム全体に熱が広がっていく。これが、組織における「グルーヴ」なのではないでしょうか。
社内報で「結果」ではなく「動き」を残す
社内報では、プロジェクトの成功を紹介することがあります。
「新商品を開発しました」
「目標を達成しました」
「新しい取り組みを始めました」
もちろん、結果を伝えることも大切です。
でも、結果だけを見せると、そのプロジェクトがどのように生まれ、どのように人が動いていったのかは見えません。だからこそ、社内報では、「何を成し遂げたのか」だけではなく、「私たちは、どうやって動き始めたのか」を残してみる。
誰が最初の言葉を発したのか。
誰がそれを拾ったのか。
誰が最初の一歩を踏み出したのか。
その行動を見て、誰が動いたのか。
どこでチームの空気が変わったのか。
それぞれの視点から振り返ってみる。すると社内報は、単なる「成功事例の記録」ではなくなります。組織の中で、動きが生まれたプロセスを可視化するメディアになるのだと思います。
「再現する」のではなく、「自分たちの動き方を知る」
こうした振り返りの目的は、成功したプロジェクトのやり方をマニュアル化することではありません。人と人との関係から生まれたグルーヴを、まったく同じ形で再現することは、おそらくできません。
メンバーも違う。
状況も違う。
タイミングも違う。
でも、「自分たちは、こういうときに動き始めるんだ」ということを知ることはできます。
誰かが小さく試してみると、周囲が動き始めるチームなのかもしれない。
お客様の声が届いた瞬間に、スイッチが入る組織なのかもしれない。
誰かが本音を口にしたとき、一気に距離が縮まるチームなのかもしれない。
「成功の法則」を見つけるのではなく、自分たちのチームには、どんなときにグルーヴが生まれるのかを知る。それは、次のプロジェクトに向かうときの、大きな財産になるはずです。
社内報は、組織の「発火点」を記録できる
前の記事で私は、「人と人の間に、言葉を置いてゆく」ことが、社内報の本質なのではないかと書きました。
人と人の間に置かれた言葉を、誰かが拾う。
その言葉に応答する。
その応答を見て、また誰かが動く。
そして、その人の動きに、今度は自分が巻き込まれていく。
巻き込みながら、巻き込まれる。
影響を与えながら、影響を受ける。
そんな連鎖の中から、いつの間にかチーム全体に一つの流れが生まれている。それは、ジャズの即興演奏から生まれるグルーヴのようなものなのかもしれません。そして社内報には、その瞬間を振り返り、言葉として残すことができます。
「あのとき、私たちはなぜ動き始めたのだろう?」
その問いを、チームのみんなで考えてみる。もしかすると、そこに見つかるのは、一人のヒーローではないかもしれません。
誰かの何気ない一言。
それを拾った誰か。
最初の小さな行動。
それを見て動いた別の誰か。
そんな無数の「応答」の積み重ねかもしれません。チームに火をつけたのは、誰だったのか。その答えは、「誰か」ではなく、「私たちの間で起きたこと」なのかもしれません。社内報で、結果だけではなく、その「間」を振り返ってみる。そこには、次のチームを動かす小さな火種が、まだ残っているのではないでしょうか。


