理念構築のプロセスに組み入れたい「ジョハリの窓」による可視化と、攀念智の解消

 新たに経営理念を構築したり、事業継承により先代から引き継いだ理念をリニューアルする時に必ず必要となるのが、経営者の性格や価値観、信条、また夢や様々な想いを内省し分析し、そして可視化する作業です。その一つの手法として「ジョハリの窓」というフレームワークがあります。ジョハリの窓で自分を客観視できると、人間関係が円滑になると言われています。今回は、そんなジョハリの窓が、どう作用して人間関係を円滑にしていくのかを考察しました。

「ジョハリの窓」とは

 1955年夏にアメリカにて催行された「グループ成長のためのラボラトリートレーニング」席上で、サンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフト (Joseph Luft) とハリ・インガム (Harry Ingham) が発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」を後に「ジョハリの窓」と呼ぶようになった。 ジョハリ(Johari) は提案した2人の名前を組み合わせたもので、ジョハリという人物がいる訳ではない。

Wikipediaより引用

 ジョハリの窓は心理学者により開発されたモデルであり、その本質は対人関係の中から気づきを得ることだとわかります。このモデルでは、自分を4つの窓(カテゴリー)に分類して、他人との関係を通して自分への気づきを促していきます。

ジョハリの4つの窓

 ジョハリの4つの窓は、それぞれ「開放の窓」「盲目の窓」「秘密の窓」「未知の窓」とされ、自己と他人から見た自己の領域を表しています。

開放の窓(公開された自己:open self)

 Aの「開放の窓(公開された自己:open self)」は、自分も他人も知っている自分であり、自己分析と他人からの分析が一致している領域です。例えば、「自分自身をせっかちだと思っていて、他人から見てもせっかちだと思われている」などです。この窓が大きい場合、自分の内面や能力などを自己開示している傾向が強いと言えます。逆にこの窓が小さいと、他人からは「よくわからない人」のように見えている可能性があります。

盲目の窓(閉ざされた自己:blind self)

 Bの「盲目の窓(閉ざされた自己:blind self)」は、自分は知らないが他人は知っている自分です。この窓が大きい場合は、自己分析ができていない、あるいは自分自身のことをあまり知らないと言えます。この窓が広がる時には「あぁ、自分は他人からはそう思われていたんだ!」という気づきが得られ、自分への理解を深めることにつながります。自分が知らなかった自分の性質を理解し受け入れていくことで、この窓は小さくなり開放の窓の面積が大きくなります。

秘密の窓(隠された自己:hidden self)

 Cの「秘密の窓(隠された自己:hidden self)」は、自分は知っているが他人は知らない自分です。この窓が大きい場合、心の中に隠している部分が多く、自己開示をしていない、あるいはできていないと言えます。
 また、この窓には、人に言えないこと、さらけ出したくない感情やトラウマ、後ろめたい事など、意図的に表にしていないことも含まれます。この窓を開放するには、信頼できる相手であったり、安心安全な場が必要となります。自分の隠し事を開示できるようになれば、この窓が小さくなり開放の窓を広げることが出来ます。

未知の窓(未知の自己:unknown self)

 Dの「未知の窓(未知の自己:unknown self)」は、自分も他人も気付いていない、あるいはまだ開発・発現されていない自分です。新しいことに挑戦したり、新しい環境にさらされて初めて気が付く、あるいは新たに開発・発現されていく可能性があります。開発や発現がされれば、秘密、盲目、開放の窓のいずれかに新たな自分が加わることになります。
 つまり、新しいことに挑戦したり、自己開発したり、もしくは苦境に立たされた時に現れた性質などは、未知の窓を小さくし、開放の窓を広げていくことだと言えます。

 開放の窓を広げるには、盲目の窓と秘密の窓を小さくする必要があります。盲目の窓を小さくするためには、他人からフィードバックを貰い、それを素直に受け入れることをしなければなりません。秘密の窓を小さくするには、自己開示を行わなければなりません。どちらも、それなりの覚悟が必要となりますので、人によっては精神的に負荷がかかることがあります。このフレームワークを行う場合は、安心安全な場を作り、信頼できるメンバーで行いましょう。

ジョハリの窓」を理念構築のプロセスに組み入れる狙い

 経営理念の構築やリニューアルには、経営者の性格や価値観、信条、また夢や様々な想いを内省し分析し、そして可視化する必要があり、それに「ジョハリの窓」が有効であることは間違いありません。
 しかし、ジョハリの窓だけで経営者の思いを見える化するのは不十分なのです。理念構築のプロセスの中で、経営者へのヒアリングを実施するのですが、そのヒアリングでは経営者自身の生い立ちから始まり、幼少期の出来事、楽しかったこと、悔しかったこと、悲しかったこと、誇らしかったこと、親への思いや関係、友人や周囲の人への思いや関係、思春期や学生時代の話、社会人になって、結婚して、子供を育てて、会社が儲かっていた時や苦しかった時…など、今までの半生を語って頂きます。

「攀念智( はんねんち)」という心の闇

 半生を語って頂くには理由があります。ほとんどの人は、人生の中で「攀念智( はんねんち)」という、人を恨んだり、憎んだりする想念を持っています。この攀念智は自分では気がつかないうちに、価値観や考え方に影響を与え、自分自身はもとより周りの人にも悪影響を与えています。特にその影響が顕著に出るのが人間関係です。
 経営者の悩みは人間関係につきると言われるほど、人間関係は経営にとって重要な要素です。人間関係を良くしようと思うと、どうしても自分の過去のわだかまりを解消しなくてはなりません。それには、生い立ちなどの半生を語って頂く(もしくは「心情」という形で文章にまとめる)ことで、攀念智を明らかにし、過去のトラウマに対しての解釈を変える必要があるのです。それをして初めて、過去から解放されて前を進んで行けるようになるのです。

攀念智への気づきは自己開示と他人からのフィードバック

 秘密の窓に隠された自己は、恐れを伴い心の奥深くに閉じ込められています。「これを言ってしまったら…」「こんな感情を抱いていたなんて絶対口にできない…」「どう人に思われるか、考えると怖い…」そんな負の感情を抱いている相手の立場になり、相手の目(視点)から自分を眺めることができると視座の転換が起こります。このプロセスに至るために自己開示が必要なのです。そして視座の転換を促してくれるのが、他人からのフィードバックです。
 そこからはまた内省が始まります。新しい視座で過去の自分を眺めたときに、相手の本当の気持ちがわかります。その多くは、先入観に囚われ、相手の気持ちを聞かないためすれ違ってしまった心と心の問題です。

素直な心と対話が攀念智を解消させる

 視座の転換が起き、相手の真意が解ると人は素直になれます。囚われていた心は強情で頑なに相手を拒否します。そんな自分がいたことを認め、相手と素直な気持ちで対話をすることで、囚われていた事に新しい解釈を与えることができます。よく過去と他人は変えられないと言いますが、過去は新しい解釈を与えてやることで変えることができるのです。無意識のうちに悪影響を与えていた囚われを手放すことができれば、良好な人間関係が築けます。

 これは、理念構築をする際に経営者が通らなければならない、通過儀礼のようなものなのです。精神的にヘヴィでハードなワークですが、新しい気持ちで前を向いて進むためにも、この試練を越え、しっかりとした経営理念を構築されてみてはいかがでしょうか。

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