人手不足問題を考えてみました。

 ここ数年、人手不足に関するニュースを頻繁に目にするようになりました。コンビニエンスストアやスーパーの24時間営業、牛丼店など飲食店の深夜のワンオペ…。地元中小企業でも同様の問題が起こっており、サービス業を中心に人材確保に向けた対策に苦慮されています。そこで少しばかりデータを集めてきて考察してみました。

2030年には644万人の人手不足が発生

 パーソル総合研究所が発行する機関紙『HITO REPORT vol.4 労働市場の未来推計2030』によると、2030年には644万人の人手が不足するという推計結果が出ています。しかし、10年後の話ではなく今現在でさえ、人手不足による影響は深刻さを増しています。
 従来は景気が良い時に人手不足が発生していましたが、今私たちが直面している人手不足は、少子高齢化による生産年齢人口の減少という構造的な問題にプラスして、アベノミクスやオリンピック需要などが絡み複合的な要因で起こっています。

 さらにこの問題をややこしくしているのが、平成30年6月29日に参議院本会議で可決し成立した「働き方改革関連法」です。これにより、残業時間の上限規制や、正社員と非正規の不合理な待遇差の解消、同一労働同一賃金や有給休暇の付与の義務化などが盛り込まれ、日本の労働慣行は大転換点を迎えます。

中小企業が直面する人手不足問題の2つの側面

 私たちの住む岡山県においても、県内企業の人手不足感は非常に強くなっており、また、当然のごとく、今後、生産年齢人口の減少が改善することは見込めません。

 岡山県中小企業団体中央会の調査によると、県内の中小企業における経営上の障害については「人材不足(質の不足)」が6割を占めており、今後、中小企業が生き残るためには、優秀な人材の確保と育成が急務であると結論づけられています。また、そのためには政府の「働き方改革実行計画」を踏まえた雇用環境、労働時間の改善は必須であるとされています。

岡山県中小企業団体中央会 調査資料『平成30年度 岡山県における中小企業の労働事情~中小企業労働事情実態調査報告書~』より

 上のグラフの赤枠で囲んでいる部分を見て下さい。気がつくことがありませんか?
そうなんです、中小企業が障害と感じている経営上の問題、人手不足には2つの側面があるのです。

「人材不足」と「労働力不足」

 人手不足には、人材不足である“質の不足”と、労働力不足である“量の不足”とがあり、障害と感じている度合いが大きいのは、人材不足である質の不足なのです。

 この2つの違いは、どう考えれば良いのでしょうか。

 人手不足問題の解決策としては、高齢者雇用、女性の雇用、外国人労働者の受け入れ、そして生産性の向上の4つが提案されています。生産性の向上は必須として、他の解決策もハードルの違いはあれ中小企業でも取り組めそうです。しかし、調査結果にある人材不足(質の不足)という障害は、単に4つの対策を行うだけでは取り除けそうにありません。どう考えてもしっかりとした人材育成が必要であると思います。人材育成の重要性が今以上に高まることが予測されます。つまり、社内教育の仕組みを作っておかなければならない訳です。そのためには、作業中心(ライン内やルーティン作業メイン)の人に対する教育の仕組み(量の不足への対応)と、いわゆる仕事中心(臨機応変な対応や創造性が必要な仕事)の人に対する教育の仕組み(質の不足への対応)とに分けて考えると分かりやすそうです。

労働力不足(量の不足)の場合は標準化と平準化が鍵

 ライン内やルーティン作業をメインに行う、作業中心の人手不足を解消する場合は、パートやアルバイトなどの契約社員で補うことが多いでしょう。また契約社員をメインにシフトを組んで作業をしている企業も多いでしょう。この場合、作業の徹底した標準化を行い、教育期間の短縮と品質の底上げを図ることが大切です。

 そうしたパートやアルバイトの多くは女性ですが、女性の雇用に関しては、勤務日数や勤務時間など多様な働き方ができる体制が必要です。以前に働いていた職場への再就職であれば、当時のスキルを活かすことができるため、教育という面を考えるとスキルのアップデートという感じですぐ戦力になるでしょう。
 パートさんメインで回していく職場であれば、シフトや季節変動にも耐えるためにも徹底した標準化や平準化を行うことが大切です。生産性の向上や品質の底上げにもつながるだけでなく、急な人手不足が発生した時の対応がしやすくなります。また、人材不足(質の不足)への対策にもなります。
 子育て中の女性に長く働いてもらうためには、子供を迎えに行く時間までに退社したいとか、子供の急な病気で休むなど、家庭の事情に柔軟に対応できる職場であることや、同僚からの理解が得られるような良好な人間関係が保たれていることが重要です。こうした良い職場は求人を出しても必ず応募がきます。
 

人材不足(質の不足)の場合は教育の仕組化が鍵

 臨機応変な対応や創造性が必要な仕事を中心する人が不足している場合、それを解消するには、しっかりとした教育の仕組みが必要となります。中小企業においての人材教育は、そのほとんどが実務を通じて業務を教えるOJTが中心となります。実務については現場で体験させながら教えることが多く、外部委託を必要とするかといえばそうでもありません。しかし、能力開発やコミュニケーション研修、チームビルディングなど、個人の潜在的なポテンシャルを引き出したり、組織としてのパフォーマンスを上げたりする研修については、従業員数もそれほど多くなく、様々な業務を兼任することが多い中小企業で、しっかりとしたOJTのカリキュラムを持っているところは稀です。また社内講師もいません。しかし、外部講師に依頼して社員研修を行うにも、研修費の負担や研修時間の確保に頭を悩ませます。下記のデータを見ると、そうした状況は明らかです。

産労綜合研究所の、上場企業および会員企業約3,000社を任意に抽出し実施した調査(2018年6月)より抜粋

人手不足問題は何から手をつけていけば良いのか

 正社員の中途採用やパート・アルバイトの求人については、環境や条件面での整備を行うことで、ある程度の応募は見込めるかもしれません。新卒については現在の状況では、中小企業に勝ち目はないでしょう。よほど何か特徴があるか、若者が心から共感できるくらいの、大きな志や理念を経営者が持っているかどうかではないでしょうか。だからこそ、志や理念はとても大切であり、これをないがしろに扱ってはいけません。

 よく人手不足問題でセットで言われるのは離職率の問題です。中途であれ新卒であれパートであれ、せっかく入社してくれた人材がすぐに辞めてしまっては、求人にかけたコストや研修費、先輩社員が教育に割いた時間とその人件費、本人に支払った給与などが大きな痛手となります。

 離職率を下げない限り、これが繰り返し起こり、それこそ、イラストのように穴の空いたバケツに一所懸命水を注いでいる状況が続き、いつまで経っても人手不足問題は解決しません。特に人材不足(質の不足)は教育にかける時間が必要なことから、そう簡単に辞められてはたまったものではありません。(しかし離職率に関しては教育の問題が直接的な原因ではないのですが…)

 そう考えると、まずは社内での教育の仕組みをしっかりと作ることが大切であるとわかります。そうは言っても社内講師を育成することも難しい状況では、一体、中小企業である私たちはどうすれば良いのでしょう…。

教育の仕組化に向けて長期の計画を立てるしかない

 人手不足の現状は何とか凌いで、とにかく、何か手を打たなければ、バケツの穴を塞ぐことは出来ません。まずは離職率の低下を行うために、自社の組織に何が不足していて、何が邪魔になっているのかを洗い出す必要があるでしょう。その上で、理念の浸透や、情報の共有などを行い、一体感を高める施策を行う。それと同時に、長期計画に沿った人材育成の仕組化に向けたスケジュールを立て、着実に進めていく…これしか手がないのではと思います。
 外部にお金を払って簡単に解決するようなものではなく、急がば回れで、コツコツと積み上げて作るしかないでしょう。もちろん、初めての取り組みであれば、ノウハウの蓄積や社内講師の育成という意味も含め、一定期間、外部講師に依頼することはベストな選択と言えると思います。

 こうした組織の変革には、その基盤となる社員や経営者との関係性が成功のカギを握ります。社員とのコミュニケーションや、経営情報の共有など、社内に向けた広報活動を普段からまめにしておくことが大切なのでしょうね。