同調圧力が企業文化になってしまったら

 私たちの多くは、何らかの組織に属して仕事をしています。その中で仕事をスムーズに回すには、周りとの関係が良好であることがとても大切になります。そこで私たちは、職場での人間関係を上手く構築していくために、自分を抑えて周りに同調するということをやっています。

 社員同士がなんでも相談できるフラットな関係で、居心地の良い職場だったとします。ところが、実際には自分を抑え込み周りに合わせている人が居るはずです。性格的に引っ込み思案だったり、集団の中では一歩下がった立ち位置を好んでいたりする人です。しかし、引っ込み思案でなくても、“和”を大切にする私たち日本人は、集団の中では目立たぬよう自らの振る舞いを自主的に抑える傾向があります。

 特に自分の意見が少数派だった場合は、多数派の意見に合わせ“場の雰囲気”を壊さないように配慮することもあるかもしれません。場の雰囲気を優先し、自らそういう行動を選択する場合には、性格や組織の中での立ち位置や役割が大きく影響しているのでしょう。しかし、本人の配慮ではなく、それが周りから強要された場合はどうでしょうか。日本の社会にありがちな『空気を読め!』という雰囲気は無言の圧力として相手の言動に制約をかけます。もし、社員同士がなんでも相談できるフラットな関係で、居心地の良い職場というのが、本当は、当たり障りの無い会話しかしない、上辺だけ仲の良い職場だったら…。

「空気を読む」という無言の圧力が違う意見を排除する

 この『空気を読む』という行為は、時に、企業の自浄能力を蝕む原因にもなります。よく大企業の不祥事で言われる隠蔽体質や、忖度する組織などです。忖度にはポジティブなものもあるので、一概に悪いとばかりは言えませんが、そういう体質の組織は、人と違う意見を許容する雰囲気を持っていません。

 周りが同じ意見だと、どうしても違う意見を言いづらい、本心では賛同できないと思う内容でも、賛同できないと言えない。こうした無言の圧力は同調圧力と言われ、良くも悪くも組織にはつきものの、集団(数)によるプレッシャーです。

同調圧力(どうちょうあつりょく Peer pressureピア・プレッシャー)とは、地域共同体職場などある特定のピアグループ: Peer group )において意思決定合意形成を行う際に、少数意見を有する者に対して、暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導することを指す。

Wikipediaより

同調圧力は、組織に属する人間にとっては悪者なのか?

 同調圧力を悪者っぽく書いていますが、実はそうとばかりも言えません、ネガティブな印象を持った言葉なので、悪く捉えがちですが、同調圧力に迎合することのメリットもあるのです。

同調圧力のメリット

 一つは、組織(多数派)に合わせて行動することで「自分も正しかったんだ」という安心感や肯定感を得られることです。少数派に属している場合は、孤独感や疎外感から組織から排除されるのではないかという不安を感じるかもしれません。それを回避したいという自己防衛行動の一つとして多数派に属する選択をするわけです。
 もう一つは、協調性がある、コミュニケーション能力があると思われることです。例えば、新商品や新事業のプロジェクトを展開する時に、それを推進しようとするのが多数派だった場合、そこに同調することが推進して行く上では重要となります。前向きな選択をしようとしている場において、後ろ向きな人間はドリームキラーと言われ、こういう新規プロジェクトに選ばれることはありません。

同調圧力のデメリット

 デメリットの一つは、冒頭にも書きましたが、場の雰囲気を乱すような言動ができなくなることです。例えば、職場における服装などもそうですが、社会人として著しく場にそぐわないような服装はNGですが、一般的にみて妥当な服装であっても、一人違っていると変な目で見られてしまうことがあります。クールビズが普及する以前がそうです。一斉に導入しなければ、もしくは正式に会社として服装に関する方針を発表しなければ、涼しいから環境にも良いからというのがわかっていても、一人だけ違う服装で仕事をするのは気が引けます。

 もう一つのデメリットは、少数意見が抑え込まれてしまうことです。日本の会議は決定事項が少なく、会議自体の生産性が低いとよく言われます。とはいえ、少数の意見では結局変わらないから発言させても時間の無駄と考え、意見すら言わせない雰囲気があったり、形だけ発言させておけば議論したことになるからと、形だけの対応をし議論しなかったり、少数派の意見に耳を傾けずに抑え込むことが多々あります。酷い場合は、断れない状況に持っていく場合もあります。こういう組織ではイノベーションなど起きようがありません。

同調圧力が企業文化になってしまったら

 人間というのは習慣にコントロールされる生き物です。それが行動習慣であっても思考習慣であっても、長らくその習慣の中にいれば慣れてしまい無意識のうちにコントロールされてしまいます。仮に、意思決定の場面で、同調圧力が常日頃から使われていた場合、その同調圧力は、集団に属する人から見れば、当たり前になってしまっています。ですから、同調圧力にそれほどプレッシャーを感じないという人が出てきます。意見を抑え付けられるような場合は、明らかに圧力ですが、やんわりと意見が通らないことを仄めかされるような場合などは圧力とまでは感じていません。また、なんとなくみんな同じような行動をしている場合で、自分だけ違う行動が取りにくいなども、圧力とまでは感じていません。

 集団の中で、みんなが同じような思考や行動を繰り返し再現することで出来上がってくるものを「文化」と呼んでいますが、同調圧力が常態化した場合は文化と言えるのでしょうか。

 言葉の問題になりますが、その場合はよく「体質」と表現されます。同調圧力が常態化していること自体を指すのではなく、それにより引き起こされる状態を表しているからです。例えば、隠蔽体質や不正を許してしまう(不正に無関心を装ってしまう)見て見ぬ振りをする体質や、セクショナリズムや保守的な体質などです。

 同調圧力と似たような機能を持つものに社風があります。社風も、みんなが同じような思考や行動を選択することを促す機能を持っていますが、社風と同調圧力はどこに違いがあるのでしょうか。

 社風は、社員が無意識のうちに感じている自社の雰囲気や空気感です。そして、この社風が無意識のレベルで社員の言動に影響を及ぼしています。つまり社風は、社員自身がプレッシャーを感じていない状態で繰り返される思考習慣と行動習慣ということです。もし社風をプレッシャーと感じるのであれば、その人は中途採用で入社してきた方で、その会社の社風が合わないという場合です。

 同調圧力というのは、それが発生している時に、相手にプレッシャーを与えていることを認識できます。もしその場で認識できなくても、後で振り返るとプレッシャーであったことがわかります。そして、同調圧力はされた側もプレッシャーを感じます。もし同調圧力にプレッシャーを感じなくなっていたら、その同調圧力は風土のように根付いてしまったのかもしれません。それが先程の体質につながっていきます。

体質改善は難しい

 大企業の不祥事があるたびに、体質改善の必要性が説かれますが、実際は簡単に行えるものではないでしょう。私たち中小企業でも同じことです。痛みを伴う大改革が必要であったり、トップの意識変革を行ったりしなければ、常態化してしまったものを改善するにはかなりの時間と労力が必要です。

 体質改善がうまくいかない要因の多くは、トップの本気度が不足しているとか、本気度があってもそれが社員にまで伝わっていないとか、自分ゴトのように捉える社員が少ないとか、短期間で成果が上がらないので諦めてしまうなどです。


 組織の体質を改善しようとする場合、やはり社内広報は必要です。中小企業であっても、少ないボリュームでも良いので社内報の発行を継続することが、時間はかかりますが一番効果的な改善策ではないかと思います。