社員が辞める要因、モチベーションが上がる要因

社員が辞める要因、モチベーションが上がる要因

 人材定着力が高い企業は何が違うのでしょうか。社員が生き生きと働いている企業は何が違うのでしょうか。給与が高い、安定している、福利厚生が充実している、職場の人間関係が良い、仕事が楽しい、やり甲斐がある…。個人が抱える問題や働く理由はさておき、働く環境や仕事その物の面白さなど、様々な要因がありそうです。
 動機付けで引用される理論に「マズローの欲求五段階説」がありますが、今回は「ハーズバーグの動機付け・衛生理論」から、人材定着力を高める要因とは何かを考えてみます。

動機付けする要因と不満足を引き起こす要因

 「ハーズバーグの動機付け・衛生理論(二要因理論)」とは、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した、職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論です。ハーズバーグによると、人間はある特定の要因が充足されると不満が減り満足するというものではなく、満足に関わる要因と不満足に関わる要因は違うと言われています。(この理論では、満足に関する要因を動機付け要因、不満足に関する要因を衛生要因と言います。)

給与や環境を整えれば辞めないという勘違い

 上記の図を見ると、給与というのは不満足に関わる要因であり、仮に給与に満足しても動機付け…モチベーションのアップには繋がらない事がわかります。また給与への不満は離職の理由としては大きくない事もわかります。また労働条件についても同様です。つまり、給与や環境を整えたからといって離職率が下がるわけではありません。ましてやモチベーションアップにも繋がらないのです。
 それよりも注目しなければならないのは、会社の方針と社員との思いに相違があった場合、極端な不満足を招いてしまうという部分です。中小企業の経営者は、社員は給与が少ないから辞めると勘違いする事が多いですが、実際は会社の方針と社員の間に溝があるから辞めてゆくのです。この溝を解消しない限り、離職者が減ることはないでしょう。

 衛生要因である不満足に関わるのは「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」などであり、これらが不足すると不満足を引き起こす。しかし、満たしたからといっても満足感に繋がるわけではなく、単に不満足を予防する意味しか持たないという事が言えます。
  衛生要因は、マズローの欲求五段階説でいうと「生理的欲求」「安全・安定欲求」と「社会的欲求」の一部の欲求を満たすものとなっています。

報酬はモチベーションに繋がるという勘違い

 モチベーションをアップさせる側である満足に関わる要因を見ると、達成感や承認、責任感などがあり、これらが満足すればモチベーションが上がる事がわかります。職場に活気を持たせ、士気を上げようとするのであれば、達成感や承認などを感じやすいような職場にする事が必要であり、給与等の報酬ではないということです。
 もちろん、給与や報酬のアップは一時的にモチベーションを上げることは可能でしょう。しかし、それよりも仕事自体に関わる事柄の方が重要なようです。


 動機付け要因を改めてみると、満足に関わるのは「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などであり、これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても不満足を引き起こすわけではない事がわかります。動機付け要因は、マズローの欲求五段階説でいうと「自己実現欲求」「自尊欲求」さらに「社会的欲求」の一部に該当する欲求を満たすものとなっています。

モチベーションのアップは二つの要因を満たす事が必要

 これらをまとめると、衛生要因である人間が仕事に不満を感じる時は、その人の関心は自分たちの作業環境に向いているのに対して、動機付け要因である人間が仕事に満足を感じる時は、その人の関心は仕事そのものに向いていると言えます。
 衛生要因が人間の環境に関するものであり、仕事の不満を予防する働きを持つ要因であるのに対して、動機付け要因はより高い業績へと人々を動機づける要因として作用しています。

 このことから、モチベーションを上げるには、衛生要因が満たされるだけでは足りず、動機付け要因を満たす必要があります。一方、動機付け要因だけを増やしても、衛生要因が満たされていなければ、社員の不満は高まっていきます。言い換えれば、衛生要因を満たすことは、モチベーションアップの前提条件と言えるでしょう。企業が業績を伸ばすには、不満要因である衛生要因を満たした上で、満足要因である動機付け要因をいかに満たしていくかがポイントになります。