職場の雰囲気を改善する「ありがとうカード」の仕組みと効果
社内の人間関係を改善し、働きやすい職場にしようと「ありがとうカード」を導入する企業が増えてきました。導入されている会社の経営者にお話を伺うと、「離職率が低下した」「社内が明るくなった」「イベント的な要素があるので楽しくやっている」などの効果があったと言われています。
低コストで効果の高いツールである「ありがとうカード」を見過ごす手はございません。そこで「ありがとうカード」がどういうものか、その本質を考察してみました。
「ありがとうカード」とは何か
「ありがとうカード」を一言で言うと、「感謝の気持ちを文字に書いて相手に渡すカード」で、「サンクスカード(サンキューカード)」「Good Jobカード」とも呼ばれています。
カードに書く内容は、自分の周りの人がさりげなくしている、“ちょっとした良い行い”です。日常業務の中で気づいたことを書けば良いので、「いつも笑顔で対応してくれて、ありがとう」「毎朝、机の上を拭いてくれて、ありがとう」「お茶を入れてくれて、ありがとう」とか、「雨の中お客様に傘を貸してあげてましたね。お客様への気遣い、ありがとう」など、深く考える必要はありません。
「ありがとうカード」の特徴
一番の特徴は「シンプルだからわかりやすい」ことです。また、次のような特徴もあります。
- 誰もが、照れることなく素直に感謝を伝えられる(最初は照れる)。
- コミュニケーションの時間が取れない人にも気持ちを伝えられる。
- 「謝る」ことに対しても素直になれる。
- お互いに心苦しい頼みごとが「緩和」される。
- 「ありがとう」が共有され、「喜ばれることとは」の意識が根付く。
「ありがとうカード」の素晴らしさ
「ありがとうカード」の素晴らしいところは「人の長所を探す訓練」になることです。
「ありがとうカード」は短所を対象にしていません。長所しか見ないのです。そのため、短所を見ない訓練を自然に積むことになります。なぜなら、「ありがとうカード」を利用し始めると、次第にありがとうのネタに困るようになります。それでも続けることで、人の長所を探せる人間になる訓練が出来るのです。
「ありがとうカード」が注目されている理由
「ありがとうカード」が注目されている理由は2つにくくられます。一つは組織として抱える問題。もう一つは企業を取り巻く環境の変化です。
組織として抱える問題は、根本的な問題を解決しない限り、対症療法的な対応では解決しないどころか、自体をさらに悪化させる傾向があります。
企業を取り巻く環境の変化は、法が変わり強制力があるものや、社会の流れの中で追随しなければならないもの、また、経済状況などがあります。
組織として抱える問題
- 成果主義に偏った評価制度によりチームとしての団結力が弱い。
- 新人が育ちにくい。
- 長期的な視点で人材育成ができない。
- 社内の雰囲気が殺伐としている。
- 離職率が高い。
- コミュニケーションが少ない。
…など。
企業を取り巻く環境の変化
- 働き方改革や最低賃金の上昇、障がい者雇用、など法制上の変化。
- 価値観の多様化、働き方の多様化(正社員、契約社員)、外国人労働者の受け入れ、新卒採用の難しさなど、社会的変化。
…など。
「ありがとうカード」の本質
「ありがとうカード」で出来ることは大きく3つあります。
1)社内コミュニケーションの活性化(同僚への「興味・関心」)
2)お互いに承認し合う風土の定着(同僚同士での「相互承認」)
3)気にかけてもらえるという自覚(自分の居場所「存在確認」)
これらの3つが「ありがとうカード」の本質であり、それは組織内の人間関係を円滑にさせると考えられます。最終的にはポジティブな社風が醸成されてゆき、業績アップに繋がります。
「ありがとうカード」の運用
「ありがとう」を伝えたい人がカードを記入し投函〜「ありがとう」を伝えたい相手にカードが届くという流れが基本形です。また直接相手に送る方法もあります。
「ありがとうカード」は期間を決めて集計し、一番多く書いた人、一番多くもらった人などを表彰する制度も合わせて運用することで、ゲーム感覚で楽しむことができ、継続率が高くなります。
集計を行うには、イラストのように投函BOXを用意して集配する仕組みが必要となり、そのための運用メンバーを決めなければなりません。直接手渡す方法であれば、集配の手間は無くなりますが、集計が自己申告制となるため、報奨制度を絡めた場合には、不正がないものと信じるしかありません。
「ありがとうカード」導入に対するネガティブポイント
「ありがとうカード」を導入するにあたっては、様々なハードルが立ちはだかります。一つは、心理的なハードルで、もう一つは物理的・時間的なハードルです。
心理的なハードルは、要は「面倒臭い…」という感情を様々な言葉で表現して反対しているだけですが、これの説得はなかなか手強いです。
物理的・時間的なハードルは、「ありがとうカード」が効果を発揮するためには継続させることが重要であり、それには報奨制度を含めた制度設計が不可欠です。報奨制度を組み込むということは、社員全員にとって公平な仕組みで運用することが必須となります。しかし、時間的・物理的なハードルの中には公平性を維持できないハードルも出てきます。もし無理に導入すれば、後々、返って悪い結果を招くかもしれません。導入検討時におけるここの判断は要注意です。
心理的なハードル
- カードを取りまとめたり、結果発表したり、運用するのが面倒臭い。
- 運用チームを編成する必要がある。
- いまどきカードに手書き、というのが重い。
- もらったカードが捨てにくく…引き出しの奥で溜まったまま。
物理的・時間的なハードル
- 拠点が分かれていると物理的なカードでは運用出来ない。(クラウドを使ったり社内SNSやグループウエアなどを使うものも出てきているが、その場合、全スタッフにパソコン環境もしくはスマホの環境が必要となる。)
- 本店と支店などで人数の格差が激しいと、多いところは必然的にカード利用数が増え、不公平感が出る。
- 近年、増加している外国人実習生や、障がい者雇用での採用者がいる場合、公平に機会を与えることが難しい。
- 忙しくて時間が取れない(本当は言い訳にならないが絶対出てくる言葉)。
組織課題の解決と理念の浸透への応用
「ありがとうカード」を導入するには、組織の課題を洗い出すことで、導入の目的を明確にする必要がありますが、その際「ありがとうカード」で解決できる課題かどうかを見極めることがポイントとなります。組織の課題としては「モチベーションが低い」「コミュニケーション不足」や「職場の雰囲気が暗い」また「社員が辞めていく」などが頻繁に上がってきます。「ありがとうカード」には、これらの課題を間接的に解決する効果は期待できますが、即効性はありませんし、また万能性もありません。そのため、効果が期待できる課題は限られています。
しかし、組織で発生する課題の原因のほとんどは、人間関係です。言うなれば人間関係とは体質のことで、組織課題とは、悪い体質が原因となり、組織の様々なところで合併症を発症しているようなものなのです。つまり、体質改善を行うということは人間関係を整えるということです。それには時間が掛かるということを理解し、長期にわたり継続運用しなければ、その効果が発揮されません。
また、遅効性ではあるものの、人間関係という組織の根底に作用する「ありがとうカード」には、工夫次第で理念の浸透を行うことができます。
具体的には、「ありがとうカード」と同時に行動指針(例えば、会社として「良し」とする事柄)を配布し、会社の方針にマッチした行動を褒める(感謝する)ようにする。
企業理念や行動指針に沿った行動をしてくれた社員に対して「ありがとうカード」を贈ることで、もらった本人の企業理念や行動指針への理解が深まる効果があります。
ぜひ長期的な視点で捉えて、「ありがとうカード」の導入を検討して見られては、いかがでしょうか。
お勧めの「ありがとうカード」
ありがとうカードは自分でも作る事ができるシンプルなカードですが、市販されているカードには使いやすいように工夫されているものが多くあります。これは使いやすそうだなと思われるカードのリンクを貼っておきます。
1)「心に残るありがとうカード」
有名なところでは、日本創造教育研究所の関連会社であるコスモ教育出版さんから発売されている「心に残るありがとうカード」があります。こちらは複写式になっているため、送った人の手元に履歴が残ります。
2)「ひとこと付箋 ありがとう」
折り紙や教材など紙加工品を製造されているエヒメ紙工株式会社さんから発売されている「ひとこと付箋ありがとう」です。こちらは付箋になっていますので、仕事を依頼するときの書類や、お菓子などのちょっとした差し入れに付けて渡すと、気恥ずかしさが消えて渡しやすそうです。