社内報は「中立」である必要があるのか── 恣意性と編集責任について考える

 社内報を制作・運用する現場では、「できるだけ中立に」「偏らないように」という言葉が、半ば合言葉のように使われることがあります。社員の立場や価値観が多様化する中で、特定の意見に寄らないよう配慮する姿勢は、確かに重要です。

 一方で、こうした「中立であるべき」という前提が、社内報の役割そのものを曖昧にしてしまっているケースも少なくありません。そもそも、社内報は本当に中立である必要があるのでしょうか。また、それは現実的に可能なのでしょうか。

 この問いは、単なる編集方針の話ではなく、社内報を「何のためのメディアとして位置づけるのか」という、組織の姿勢そのものに関わる問題だと感じています。

社内報は、すでに「編集された情報」である

 社内報は、新聞や報道機関とは異なります。
 報道機関が不特定多数に向けて事実を伝えることを主目的とするのに対し、社内報は、特定の組織の中で共有されることを前提としたメディアです。

どのテーマを取り上げるのか。
誰の声を載せ、誰の声を載せないのか。
掲載順はどうするのか。
写真を使うのか、使わないのか。

 これら一つひとつの判断は、すべて「編集」です。つまり、社内報は発行された瞬間から、組織として選び取られた情報の集合体になります。

 この意味で、「完全に中立な社内報」というものは、理念としては掲げられても、実務上は成立しにくい存在だと言えるでしょう。重要なのは、中立を装うことではなく、編集が介在しているという事実を、きちんと認識することです。

問題は「恣意性」ではなく「無自覚さ」にある

 社内報に対して違和感や不信感が生まれるとき、その原因は「恣意性そのもの」にあるとは限りません。
多くの場合、問題になるのは、恣意性が自覚されないまま発信されていることです。

  編集の意図が語られないまま情報が届けられると、受け手は内容そのものよりも、「なぜこれが載っているのか」「何を狙っているのか」と、裏側を読み取ろうとします。

その結果、本来は称賛や共有を目的とした成功事例の記事であっても、
「特定の人を持ち上げているのではないか」
「別のメッセージが隠れているのではないか」
といった、穿った受け取り方をされてしまうことがあります。

 これは、記事の良し悪しではなく、これまで積み重なってきた情報発信のあり方が生み出す現象です。
恣意性を否定するのではなく、恣意性があることを前提に、どう扱うかが問われています。

誰が「語っているか」が見える社内報

 社内報において、信頼を左右する大きな要素の一つが、「誰が語っているのか」が見えるかどうかです。

 匿名的で、立場や背景が見えない言葉は、どれだけ正しい内容であっても、受け手の中に疑念を残しやすくなります。

一方で、
「この言葉は、誰の責任で書かれているのか」
「どんな立場から語られているのか」

が明確な記事は、意見が分かれたとしても、比較的受け入れられやすい傾向があります。

なぜ今、このテーマなのか。
なぜ、この切り口なのか。

それらが丁寧に説明されている社内報は、一方的な押し付けではなく、対話のきっかけとして機能します。

社内報は、思想を編集するメディアである

 社内報は、単なる情報伝達のツールではありません。また、賛成・反対を決めるための場でもありません。

組織として、何を大切にしているのか。
どのような判断基準で物事を考えているのか。
どこを向いて進もうとしているのか。

 そうした価値観や方向性を、言葉として蓄積し、共有していく営み。
それこそが、社内報の本質的な役割だと考えています。

この意味で、社内報は組織の思想を編集するメディアだと言えるでしょう。

社内報は、恣意的であってよいのか。
その答えは単純ではありません。

しかし少なくとも、恣意性を否定して無色透明を装うよりも、自覚的に引き受け、語る姿勢を持つことの方が、長期的には社内報への信頼を育てていくはずです。

まとめ

 社内報に求められているのは、「正しさ」や「無難さ」だけではありません。
誰が、なぜ、その言葉を選んだのか。

その背景まで含めて伝えようとする姿勢こそが、社内報を単なる広報物ではなく、組織を支えるメディアへと育てていくのだと思います。

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