「誰も教えてくれない取材」〜スタンダードを知らない難しさ

 社内報の制作における取材という工程で、実は最も見過ごされがちなのが、「取材を教えてくれる先輩がいない」という現実です。取材に関して、新聞社やメディア業界に入らない限り、体系的な指導を受ける機会はほとんどありません。結果として、取材スキルは独学で身につけることが一般的です。このため、多くの人は「取材のスタンダード」そのものを知らずに取材を行っています。

1. 取材の「スタンダード」が不明確

 社内で取材経験者が少ない場合、どのように取材を進めるべきか、また「良い取材」とは何かを知らないまま、なんとなくで進めてしまうことがよくあります。これにより、必要な情報が不十分だったり、表面的な取材になってしまいがちです。さらに、自身が明確な基準を持っていないために、後輩や同僚に取材を教えることが難しくなります。
 このような状況では、取材の「スタンダード」を定めることが不可欠です。具体的なフレームワークを用いることで、取材内容の質を一定に保ち、組織全体で取材スキルを標準化することが可能になります。

 例えば、「5W2H」はこの状況に最適なフレームワークです。取材前の準備段階で「誰に(Who)、何を(What)、いつ(When)、どこで(Where)、なぜ(Why)、どのように(How)、どれくらい(How much)」という観点で情報を整理し、事前に質問を作成することで、抜け漏れを防ぎ、効率的に必要な情報を引き出せるようになります。

  • Who: 誰に取材するのか。取材対象者を明確にし、その役割や知識を理解する。
  • What: 取材の目的は何か。取材を通して何を伝えたいのかを明確にする。
  • Why: なぜそのテーマが重要なのか。記事の意図や背景を把握することで、取材の方向性が定まる。
  • How: どのように取材を進めるか。取材の進め方や深掘りの仕方を計画しておく。

2. 独学での限界

 多くの取材担当者は、最初は「とりあえずやってみる」形で自己流の取材を行います。具体的なノウハウが不足しているため、質問の作り方や取材の進行方法にばらつきが出ることが多く、深みのある話が引き出せないケースもあります。独学では失敗から学ぶことができる反面、効率的にスキルを高めるには時間がかかり、場合によっては取材対象者との信頼関係に悪影響を与える可能性もあります。

 独学の限界を克服するためには、取材の基本フレームを活用することが重要です。例えば、事前に「5W2H」を使って質問リストを整理しておくと、取材中に必要な情報を漏れなく収集することができます。また、先輩や経験者からのフィードバックを積極的に受けることで、取材スキルを効率的に向上させることができます。

3. 教えることの難しさ

 取材経験があっても、それを他者に教えることは難しいものです。特に、取材が感覚的に行われている場合、どうやって質問を組み立てるか、相手からどのように深い話を引き出すかを体系的に説明するのが難しくなります。結果として、後輩や新人に指導する際、具体的なポイントが伝わらず、取材スキルにばらつきが生じることがあります。この状況は、社内報全体の質や一貫性にも影響を及ぼすリスクがあります。

 教えることを容易にするために、取材のプロセスを明確にし、体系化する必要があります。例えば、取材の流れを事前に整理し、それに基づいた具体的な質問や手順を共有することで、新人や経験の浅い担当者にもわかりやすく指導することが可能です。また、取材の事前準備やインタビュー中の反応の引き出し方、取材後の確認作業など、ステップごとに指導できる環境を整えることが重要です。

4. 取材スキル向上のために

 取材スキルを向上させるためには、実際の経験だけでなく、体系的な学びの場を設けることが必要です。取材技術は繰り返し行うことで磨かれますが、より効果的な方法を学ぶためには、外部の知識やフィードバックを取り入れることが欠かせません。

1. 外部セミナーや研修への参加
 外部セミナーや研修では、取材の基礎から応用まで、体系的なノウハウを学ぶことができます。特に、メディア業界やジャーナリズムに特化した講師からの指導は、社内で得られない視点を提供してくれます。また、インタビュー技術における「質問の深掘り」や「相手の感情を引き出す技術」など、独学では習得しにくいスキルも身につけることができます。

2. 取材マニュアルの作成
 取材スキルを社内で標準化するために、取材マニュアルを作成することが有効です。マニュアルには定番の質問を取り入れた質問リストや取材の進め方、事前準備のポイントなどを記載し、取材を円滑に進めるための手順をまとめます。特に、定期的に行う取材や企画に対しては、あらかじめフレームワークを適用しておくことで、効率的かつ質の高い取材が可能となります。

3. ロールプレイングやフィードバック制度
 新人や経験の浅い担当者に対しては、ロールプレイング形式の模擬取材を行うことで、取材の流れや質問の仕方を実践的に学ぶことができます。また、実際の取材後には、上司や先輩からフィードバックを受けることで、良かった点や改善すべき点を把握し、次回の取材に活かせます。特に、「5W2H」を基にしたフィードバックを行うと、具体的な改善策が明確になります。

5. 取材を「教える」文化の醸成

 取材は単なる情報収集の手段ではなく、組織全体のコミュニケーションを円滑にし、社員同士の理解を深めるための重要なスキルです。そのため、取材スキルを社内で共有し、継続的に教え、育てる文化を醸成することが大切です。これにより、社内報の質が向上し、組織内での情報伝達が効果的かつスムーズになります。

 取材スキルを「教える文化」を醸成することで、社内全体の情報共有の質が向上します。社員全員が取材の基本技術を理解し、効率的に情報を集め、発信することができる環境を作ることが、組織の一体感を強化し、コミュニケーションを活性化させます。社内報が単なる「お知らせ」ではなく、組織の声を拾い、共有するための強力なツールになるでしょう。

終わりに

 取材は「誰も教えてくれない」部分が多く、経験と独学に頼る場面が多いものです。しかし、効果的なフレームワークを活用し、取材の基準を体系化することで、誰でも質の高い取材が可能になります。「5W2H」のフレームワークを適切に使うことで、必要な情報を効率的に引き出し、社内全体で取材スキルを共有することができます。