鹿狩りの例えから学ぶ社内協力の重要性：社内報が果たす役割

　チームの協調性を阻害する原因の一つに「鹿狩り」というものがあります。特に鹿狩りは、成果主義など個人に強いインセンティブが働くような人事考課制度が施行されている場合によく見受けられます。個々の利益が重視される環境では、全体の協力が難しくなる傾向があり、個人の目標とチーム全体の目標とのバランスが重要になります。

　企業の成長において、組織全体の協力は欠かせない要素です。社内プロジェクトや新しい取り組みでは、全員が協力し、一丸となって取り組むことで大きな成果を上げることができます。しかし、協調を蔑ろにして個人の成果を上げる方向に走った場合、その目標を達成することは困難になります。この「協力の必要性」を理解する上で役立つのが、ゲーム理論の一つである「鹿狩り」の例えです。この記事では、鹿狩りの例えを使って、社内組織での協力関係の重要性を考え、社内報がどのようにその協力を促進できるかについてご紹介します。

鹿狩りの例えとは？

　「鹿狩り」は、ゲーム理論の中で協力と個人の利益についての選択を説明するシナリオです。プレイヤーは協力して大きな獲物である「鹿」を狩るか、自分一人でも捕まえられる小さな「ウサギ」を狩るかを選ぶ必要があります。大きな成果（鹿）を得るには全員の協力が必要ですが、一部のメンバーが協力しないと、その成果は得られず、小さな成果しか手に入りません。この状況は、企業内のプロジェクトや目標達成のためのチームワークにおいてもよく見られるものです。

　鹿を狩るために全員で協力するのがリスクのある選択である一方、ウサギを狩ることは一人で確実に成果を得られる行動です。しかし、ウサギを狩ることに固執すると、全体の成果を大きく伸ばす機会を逃してしまいます。つまり、個人にとってリスクが低いのはウサギ狩りですが、組織全体にとって大きな成果を得るには、リスクを取ってでも協力する必要があるのです。組織の目標を達成するためには、全員が協力に参加し、個人の成果よりもチームの成功を優先する姿勢が求められます。

　例えば、マーケティングチームが新しいキャンペーンを立ち上げる際に、営業チームと開発チームの協力が欠かせないことがあります。マーケティングチームがキャンペーンを効果的に進めるためには、営業チームの市場からのフィードバックや開発チームの技術的なアドバイスが不可欠です。しかし、個々の部門がそれぞれの業績を優先し、自分たちだけの成果を追求すると、全体の協力が欠け、結果としてキャンペーンが失敗することになります。

協力の重要性を示す社内エピソード

　社内においても「鹿狩り」の例えは多くの場面で当てはまります。例えば、大規模なプロジェクトを成功させるには、各部署やチームの協力が必要です。しかし、成果主義の制度が導入されている場合、個々のメンバーが自分の短期的な業績や個人のタスクを優先してしまうことがあります。このような状況では、プロジェクト全体の成功に支障が出てしまうことがあり、協力の欠如による失敗が教訓となります。次回以降のプロジェクトで全員が同じ目標に向かって協力することが重要だと学ぶことができます。

　成功したエピソードとして、ある新製品の開発プロジェクトでは、各部署が協力し、リソースを共有しながら短期間でプロジェクトを具現化することに成功しました。このプロジェクトでは、営業部が顧客ニーズを細かく収集し、開発部門とマーケティング部門がそのニーズに応じた製品設計とプロモーション戦略を共同で構築しました。社内報でこのプロジェクトの振り返りを特集し、協力の結果がどのように大きな成果に結びついたかを伝えることで、他の社員にも協力の重要性を伝え、次のプロジェクトで同様の成功を生むきっかけとすることができます。

　一方で、過去に個々の業績のみを追求したために失敗したプロジェクトも存在します。例えば、技術部門が独自に進めた開発プロジェクトで、営業部門との調整が不十分だったため、最終的に市場ニーズに合わず、製品が十分に売れなかった事例がありました。このような失敗例も社内報で共有することで、組織全体に協力の必要性を再認識させることができます。

　また、あるプロジェクトでは、ある部署がリスクを避け、確実に自分たちが評価される業務に集中したため、全体の成果に悪影響を及ぼしたケースがありました。このケースを社内報で取り上げ、リスクを取ってでも協力に参加することの価値を強調することが重要です。特に、鹿狩りに参加することが組織全体の成功につながり、最終的には個人にも大きな報酬をもたらすことを社員に理解してもらうことが必要です。

社内報が果たす役割

　社内報は、こうした「鹿狩り」の例えに基づくエピソードを通して、協力の重要性を全社員に伝えるための有効なツールです。成果主義の環境においても、協力が重要であることを全社員に理解してもらうために、適切な事例紹介やメッセージ発信が欠かせません。以下のような具体的な社内報の活用方法が考えられます。

成功事例の共有

　大きな成果を上げたプロジェクトを特集し、協力がどのように成果に結びついたかを具体的に紹介する。特に、全員が協力した結果として得られた成功を共有することで、協力行動の価値を全社員に伝えます。

　例えば、新規事業の立ち上げに成功した際、各部署がどのように貢献し、どのように連携したかを詳細に伝える記事を作成することで、協力のプロセスを可視化します。

失敗からの教訓

　協力が足りずに失敗した事例も社内報で取り上げることで、協力の欠如がどのような影響を与えたかを理解させ、次回のプロジェクトで同じ過ちを繰り返さないようにします。

　例えば、部門間の連携不足により失敗したプロジェクトを取り上げ、その原因と改善点を解説し、協力の重要性を強調します。

協力を促すメッセージの掲載

　経営層やプロジェクトリーダーからのメッセージを掲載し、社員に向けて協力の重要性を訴えることで、組織全体の意識を高めることができます。

　例えば、社長から「全社的な協力が企業の成功にどれほど重要であるか」をテーマにしたメッセージを発信し、協力が企業文化の一部であることを伝えます。

協力的な行動を表彰

　協力的な行動を取ったチームや社員を表彰するコーナーを設け、その姿勢が会社にとって重要であることを明確にすることで、他の社員にも協力行動を促します。

　例えば、部門間の協力により大きな成果を上げたチームを月間表彰し、成功事例として取り上げることで、協力行動のモデルケースを示します。

まとめ

　「鹿狩り」の例えは、特に成果主義が導入されている企業において、協力関係の重要性を理解する上で非常に有効です。社内報は、協力の重要性を社員に伝え、個々のインセンティブと組織全体の成功を両立させるための強力なツールとなり得ます。協力が全員の成果にどうつながるのかを実例を交えて伝えることで、社員一人ひとりが協力行動の大切さを理解し、次のプロジェクトでより強い一体感を持って取り組むことができます。社内報を通じて協力の文化を育み、会社全体の成長を促進することが、持続的な成功への道となるでしょう。

　特に、個人の業績を評価する成果主義が強く働く環境では、協力の価値をしっかりと伝えることが必要です。社内報を通じて、リスクを取って協力に参加することが長期的な成功に繋がることを社員に理解してもらうことが、持続可能な成長を実現する鍵となります。鹿狩りのように、全員が協力することで初めて大きな成果を得られるという教訓を共有し、個々の行動が組織全体にどのように影響するかを深く考えてもらうことが大切です。