長寿番組の事例から考える“継続させる力”の本質

 昨年の記事ですが、個人的に面白い考察だと思うので再掲します。
 2020年4月9日木曜日 19:00〜19:30放送のエフエムくらしき『プリティーウーマン』の第946回目にゲストとして出演させていただきました。
 プリティーウーマンは、毎月第2・4・5の木曜日の19:00から30分の生放送をされている市民制作番組です。実は、私たちが「気まぐれ!メンズトーク」を始めるキッカケを与えてくれた番組でもあるのです。
 今回は、この出演を通じて感じた、ラジオ番組を長く続けていくコツ“継続させる力”と、その本質について考えてみたいと思います。

FMくらしき開局当初から続く長寿番組

 『プリティーウーマン』は、FMくらしきが開局した1996年(平成8年)12月から3ヶ月後の3月にスタートしており、今回で946回目の放送(23年)だそうです。
 パーソナリティは、平松とも子さんと池上清美さんのお二方の素敵な女性です。平松さんは、穏やかで品のある話し方をされる方で、心地よい雰囲気を醸し出しスタジオ内を居心地の良い空間にしてくれます。池上さんは、明るく元気の良い声で、活気を与えてくれます。また、話の長さに合わせ臨機応変に尺を調整する仕切り上手で、テンポよくゲストから話を引き出していきます。

 プリティーウーマンは、毎回、さまざまなジャンルのゲストをお迎えし、生放送でお送りしているトーク番組です。パーソナリティの平松とも子さんと池上清美さんが、『母であり、妻であり、そして女性の視点から、ゲストが持っている“こだわり”や“情熱”など「暮らしを愉しむエッセンス」をお伺いし、リスナーの皆さんに元気をお届けしよう』というのがコンセプトの番組です。

 そんな素敵なパーソナリティのいるプリティーウーマンに出演するのは、2014年12月の放送に続き、今回で2回目でした。前回の出演の時は「気まぐれ!メンズトーク」の放送開始の宣伝をされては?と言うことで呼んでいただきました。5年前のことです。今回は「ありがとうカード」の話をして欲しいとのオファーを頂き、「ありがとうカード」の内容と共に「社風づくり支援業」としてパッションが行なっている社内報についての事業を紹介させていただきました。

 さて、このプリティーウーマンですが、毎回ゲストを迎えて生放送でお送りする番組でありながら、23年間、一度も休むことなく続けられています。なぜそんな凄いことが出来たのでしょうか。そこにはどんなコツやノウハウがあるのでしょうか。分かる範囲で考察してみましょう。

いざという時に使えるオプションを常に用意しておく

 パーソナリティのお二方とも、普段の生活では、妻としての役割、母としての役割もありますし、また、会社にも勤められていたり…子育てもされてきています。これまでの生活の中で、旅行などの家族行事や、家族や知り合い方の病気や死など、突発的な出来事もあったことでしょう。ちょっと想像しただけでも、日々の忙しさだけでなく、様々なイベントやアクシデントがあったことは誰にでも想像できます。また23年間という時間でライフステージは大きく変わり、生活環境も変化しているはずです。

 月一回放送の「気まぐれ!」の私たちでさえ、ゲストの候補を考え、出演交渉をして取材に行き、台本を書いて…省ける部分があるとしても、それでも放送までの段取りとしては結構やることがあります。月に2回から3回も放送されるプリティーウーマンは、私たちから見れば凄いとしか言いようがありません。
 23年の間、どうしても放送を休まなければならない大きなアクシデント(個人的な)が無かったのかもしれません。そうであっても、何かあった時にすぐに使えるオプションを常日頃から用意しておき(頭の片隅にでも入れておくなど)、そのオプションが、すぐ使えるように態勢を整えていたのでしょう。

段取り力とポジティブ思考

 そう思うのには理由があります。実は、私の出演は、ゲストとして予定していた方が出演できなくなったことで、急遽決まったことだからです。パーソナリティのお一人である池上さんは、段取りを特技と公言するくらいの段取り上手ですから、もともとそういう強みを持っているのでしょう。

 段取り上手は、物事を進める上でとても有用な強みです。またポジティブ思考であることも、この強みを最大限に活かせる要素かもしれません。仮にアクシデントが発生した時、その時点で打てる手は何か…出来ることに目を向けること、つまり可能性に目を向けポジティブに考えなければ、打開策は考えられないからです。

ゲストを途切れさせない仕組み

 23年間946回も放送を継続してもゲストを途切れさせないようにするには、どのような仕組みが必要でしょうか。

 まず最初に考えるのは、自分たちの人脈を活用することです。しかし、パーソナリティの二人の人脈で、23年の間、途切れることなくゲストを手当てしておくというのは、よっぽど幅広い人脈を持っている二人であったとしても無理な話です。なぜかと言うと、一人の人間が比較的頻繁にコミュニケーションをとる人数は150人くらいと言われているからです。以前、記事に書きましたが、これはダンバー数と言う有名な数で、一人ひとりの顔と名前が一致できる限界の人数です。
 その上の人数は、弱い繋がりと言われる人数で500名と言われています。この繋がりは、会ったことはあるが親しくない繋がりです。ゲストへの出演交渉をする場合は、この辺りが限界ではないでしょうか。最大限、人脈をフル活用しても、候補者との予定が合わないとか、断られることなどがあると、パーソナリティの人脈だけでは無理です。ただ、積極的に様々なイベントや交流会などに参加し、人脈づくりを意識的に行うことで、ある程度は人脈を広げ続けることは可能でしょう。しかし、イベントや交流会というものも、回を重ねるごとに顔ぶれは固定化されてゆき、いつの間にか知った人たちばかりということになるでしょう。

他人の人脈を活用させてもらう

 自分たちの人脈だけで足りない場合、次に取るのは、他人の人脈を使わせてもらうという方法です。紹介作戦ですね。これはなかなか有効な方法で、タモリさんの『笑っていいとも!』の「友達の輪」が有名なところです。このように、出演者から次の出演者を紹介してもらうということをしなければ、すぐに人脈は枯れてしまいます。しかし、これだけではまだまだ不安です。常に「誰か面白い方を紹介して!」と紹介してくれそうな人に会ったり、人脈が広そうな人に会ったりしたら、声を掛け続けなければなりません。ちなみに、気まぐれ!は、この方法でゲストの候補を確保しています。

 さて、ゲストを途切れさせないためには、人の繋がりを広げていくことがポイントです。まぁ当たり前ですね。しかし、プリティーウーマンのお二人が凄いのは、それを仕組化し常につながりが広がる仕組を作っている所にあります。

別の活動とのリンクや自分の分身を作り接点を増やす

 パーソナリティのお二人は、以前から市民活動にも参加されており、プリティーウーマンは、倉敷市男女共同参画推進センターの登録団体として認定されています。その関係で「夢人 私らしく生きてます」などのイベントを委託され講演を主催するなどの活動もされています。こうした別の活動で広がった人脈も活用してゲストを確保しています。

 男女共同参画の委託事業は、講演者の選定と手配など、それなりに手間暇がかかりますが、その講演者のスケジュール調整さえできれば、プリティーウーマンへの出演交渉は簡単でしょう。それこそ、委託事業で登壇してもらっているので、ラジオに出るための事前取材も不要でしょう。

 また、私たちの気まぐれ!メンズトークも、プリティーウーマンと同様にゲストを迎えてのトーク番組なので、コンセプトはほぼ同じです。違うのは、男性視点か女性視点かによる話題の引き出し方と、トークの広げ方だけです。ですから、ゲストの紹介が可能です。つまり、プリティーウーマンから見れば、私たちの番組は、プリティーウーマンのゲストの候補を獲得する仕組の一部として機能している、そう見ることもできるのです。気まぐれ!メンズトークは、プリティーウーマンから派生した姉妹番組です。私たちが、気まぐれ!メンズトークを始めたことが、結果的にプリティーウーマンのゲストの確保に貢献していることは間違いありません。言うなれば、自分たちの分身を作ったような感じです。

 元来、外向的で明るいお二人は、人付き合いも良く友人や知り合いも多いのだと思います。その上さらに、他人の人脈を活用したり、別の活動をリンクさせたり、分身を作ったりしているわけですから、繋がりが広がり続けます。しかし、こういうことが可能になるためには人柄…人間性が良いことが条件です。人間性が悪いと人は協力してくれません。自己顕示欲が強く見栄っ張りな人だったり、自分の利益しか考えない人だったり…。そんな人からの依頼を受けたい人はいません。その点においても、お二人の人柄はとても良く、本当に素敵な女性です。

“継続させる力”の鍵となるのは「日常化」と「好奇心」

 23年間も番組を続けてこられた理由をまとめてみると、次のことが出来ていたからだと考えられます。

いざという時にすぐ使えるオプションを常に用意していた。段取り力とポジティブ思考が必要。
ゲストを途切れさせない仕組みを作っていた。他人の人脈を活用したり、他の活動をリンクさせたり、自分の分身を作ることが必要。
 さらに、これに加えて、普段の生活にこれらの活動を組み込み、「日常化」させていたのではないかと思います。日常化とは簡単に言うと、放送が特別なことでは無く、普段の生活の一部になるような感じです。

負担なく続けるために「日常化」させる

 「日常化」の意味を調べてみると…

意義素
物事が一定の間隔で行われることが決まった状態になること

類語
ルーチン化した ・ 恒常化した ・ マンネリ化した ・ 日常化した ・ マンネリの ・ お約束の ・ ワンパターンの ・ パターン化した ・ 型にはまった ・ 型通りの ・ 相変わらずの ・ 繰り返しの ・ 繰り返し的な

weblio 類語辞典より引用

 と、あります。類語を見るとわかりやすいのですが、日常化とはパターン化したものであり、マンネリ化に繋がるものです。最初は、放送日は日常では無く特別な日であったが、次第に放送がある生活が普通になっていくことですね。つまり日常生活の中に放送があるのです。
 特別なことではないのですから、放送がある日も普段の生活と同じです。その状態になると、心にもゆとりが生まれ慣れもでてきます。日常生活の一部なので、それほど負担は感じることなく続けていくことができるでしょう。

 しかし、この「日常化」には大きな落とし穴があります。それがマンネリ化です。普段生活をしていると、時々、遠く離れた地に旅行に行きたくなることがあります。非日常を楽しみたいという欲求です。番組も、長くやっていると変わった事、変化を求めるようになります。自分がやっていることが、だんだんつまらなく感じてくるからです。そうなるとモチベーションが下がり、かろうじて継続している惰性の状態に陥ります。そこまでくると何かのキッカケで、番組の終了を意識し始めます。

 これを防ぐには、番組を常に変化させていくしかありません。幸いにも、プリティーウーマンはゲストを迎えてのトーク番組ですから、毎回、新しい話題にあふれています。ゲスト自体がコンテンツで、プリティーウーマンはそのコンテンツを拡散するプラットフォームという訳です。つまり番組の変化はコンテンツであるゲストが生んでいるのです。

楽しみ続けるために必要な好奇心

 もう一つ忘れてはならないのが、パーソナリティ自体が人や物事に対して興味を持っているかどうかです。好奇心が強い人は、様々なことに興味関心を持ち、いろんな事を楽しむことができます。常に好奇心を持って生活をしていると、小さなことに気づいたり、ちょっとしたことに感動したり、小さな幸せを感じたり…。心の感度が高まり生活に飽きることはありません。この小さな変化を見つけられるくらい強い好奇心があることが、長く続く番組を“楽しみ続ける”ために必要な、大切な要素だと思うのです。

“継続させる力”の本質は「日常化」と「好奇心」に集約される

 番組を長く続けるために必要な、“継続させる力”の本質は、結局のところ、「日常化」と「好奇心」に集約されます。この考え方は、ビジネスなども含めあらゆる物事を長続きさせるのに使えるでしょう。
 日常と非日常という対比で考えることもできそうですが、非日常は日常に戻ってこなくてはなりません。つまり日常に対する感じ方は変化しないのです。要は気分転換やストレス発散のために非日常を取り入れている感じです。好奇心であれば、日常自体への感じ方、つまり意識が日常に向いている訳ではないため、繰り返しの毎日を送っているとは感じにくいのです。これが飽きないようにするためのコツです。

 「日常化」と「好奇心」とは、同時には相容れない要素であるかもしれません。しかし、相反する要素があるからこそ、物事はうまくいくのではないでしょうか。

“継続させる力”を後押しするリスナーの存在

 ラジオは、過去に、マス4媒体の中でも最も衰退が激しいとされていたメディアです。それでも、ドライバーを中心にラジオ放送を愛している方は多く、根強い人気があります。現在では、マス媒体はオンラインメディアに圧倒されていますが、震災以降、ラジオの良さが再認識され、また地域密着ならではの存在価値も高まり、昨今ではラジオの人気も高まりつつあります。

 ラジオは基本的に単方向のメディアです。ですから、通常はリアルタイムでのコミュニケーションはとれません。しかし、FAXや手紙などでリスナーからのレスポンスがあると、パーソナリティのモチベーションは格段に上がります。つまり、リスナーの存在を感じられることが、パーソナリティのモチベーションに大きく影響してきます。もちろん、長年放送が継続しているからこそ、リスナーが付いてくるので、継続すればするほどやめにくくなって来ます。

 今はネットの時代です。多くの番組がfacebookなどのSNSを通じて、番組の告知やスタジオ内の様子を配信しています。どの番組も、リスナーからのレスポンスを期待しています。リスナーからの反応はパーソナリティにとってはとても嬉しいものです。やはり、最後にはリスナーの存在が番組を継続させる力となって、後押しするのではないかと思います。

 プリティーウーマン放送中に、リスナーの方からFAXを頂きました。私のことにも触れていただいて…嬉しかったです。レンコン団地のMさん、ありがとうございます!

 今回の出演を通じて、面白い考察ができたと思います。「気まぐれ!メンズトーク」にこの考え方を活用していきたいと思います。もちろんビジネスや生活にも!